【2022最新】世界の分断を防ぐには?今警戒すべき5つのグローバルリスク
2022年、新型コロナウイルスの世界的な流行から3年目を迎えた世界では、ロシアとウクライナの軍事衝突やその国際的緊張に端を発するエネルギー価格の高騰など、パンデミック以外にも様々な課題を抱えています。
複雑化するグローバル社会において、現在警戒すべきリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。世界経済フォーラムが出版した『Global Risks 2022 17th Edition』の日本語版『第17回 グローバルリスク報告書 2022年版』(以下、「本レポート」)より、主要な5つのグローバルリスクを紹介します。
1. 脱炭素社会への移行の失敗
1つめのリスクは、「脱炭素社会への移行の失敗」です。
温室効果ガス排出削減等のために2016年に発効したパリ気候協定では、世界共通の長期目標として、産業革命以前の平均気温からの上昇幅を1.5℃に抑える努力を追求することが定められました。しかし、2021年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)でなされた「国が決定する貢献(NDC)」ではその目標を未だ下回り、最も楽観的なシナリオであっても「1.8℃にとどまる」とされています。
したがって、脱炭素化に向けてより強力な対策を各国が講じることが必要になってきますが、本レポートによると「脱炭素化に必要な技術、経済、社会の変化の複雑さは、現在のコミットメントの遅さ、不十分さと相まって、必然的にさまざまなレベルの無秩序をもたらすと考えられる」とのこと。
本レポートでは、脱炭素化の取り組みの「最悪の結果」として「雇用の喪失、コストの増加、無秩序な移行に伴う地政学上の不安」を挙げており、無計画な脱炭素化はかえって既存の社会システムを混乱させることを指摘しています。重要なのは各国政府が「人々への影響を軽減するための政策や社会保護システムを構築」することであり、そのためには脱炭素化をどのようなスピード感で行うか、どのようなステークホルダーが影響を受けるのか、十分に考慮することが重要であることを示唆しています。
→1つめのリスク「脱炭素社会への移行の失敗」詳細記事はこちら
2.サイバーセキュリティ対策の失敗
2つめのリスクは「サイバーセキュリティ対策の失敗」です。
私たち現代人の生活は言うまでもなく、あらゆるデジタル技術に支えられています。特に近年はインターネットが「より分散化されたバージョン3.0に急速に移行しつつある」と本レポートは指摘。AIや5G、ブロックチェーンなどの技術の進展に伴ってサイバー空間はより複雑化していく一方、社会の「デジタルシステムへの依存度」もますます高まっていき、サイバー犯罪の脅威は「それを効果的に防止・管理する社会の能力を上回る勢いで増大している」としています。
サイバーセキュリティリスクの増大は、国家レベルで見ればサイバー攻撃の脅威に直結します。サイバー攻撃の高度化は国家間の分断を招きかねず、この脅威を軽減できなければ各国の政府は「加害者に対して報復を続け、公然のサイバー戦争につながり、社会はさらに混乱し、政府のデジタル情報の管理者としての能力に対する信頼が失われるだろう。」と本レポートでは警告されています。
個人レベルで見れば、インターネットに触れる機会の少ない、またはこれから触れることになる人々が最もサイバー犯罪に対して脆弱であると言えます。本レポートによれば「世界人口の約40%」が未だインターネットにつながっておらず、これらの人々はすでに「デジタルセキュリティの不平等に直面している」とのこと。
このように分断と紙一重のデジタル世界を健全に保つには、「意図的かつ持続的な信頼構築の取り組みによってデジタルの信頼を向上させるよう行動」することが重要と本レポートはまとめています。
→2つめのリスク「サイバーセキュリティ対策の失敗」詳細記事はこちら
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3.移民の困難化
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3つ目のグローバルリスクは、「移民の困難化」です。
経済的困難や気候変動、紛争や政情不安などで移民となる人の数は年々増加しており、2010年には2億2,100万人であったのが、2020年には2億8,100万人に上ったとのこと。にもかかわらず、彼らの移動を取り巻く状況は厳しさを増しています。
原因のひとつは新型コロナウイルスの感染拡大です。感染を防ぐための移動制限により「一部の移民の流れが中断された」ばかりでなく、移民を受け入れてきた国の「グローバリゼーションへの幻滅」が加速し、政府が移民に対してネガティブな行動をとりやすくなった傾向を本レポートは指摘しています。
移民の困難化は、紛争や政情不安、気候変動にあえぐ地域から移動しようとする人々を人道的な危機に追い込むだけでなく、世界的に労働力の流動性を損ない、移民の目的国にも経済的な打撃を与える可能性があります。本レポートは「送金の流れ」にも言及しており、「世界的な送金の流れ」が弱まれば、「所得の伸びがインフレに追いつかなくなり、出発国の社会移動が制限される可能性がある」としています。移民の困難化は移民出発国・目的国双方の経済にマイナスだというわけです。
移民に伴う課題を解消して各国が利益を得るためには、本レポートは「一貫した法的・政策的枠組み、国際協調と調整」等によって移民の経路を構築し、国際社会が「難民受け入れのための協力体制を強化することにより、地政学的分断を超えた友好関係を築くこと」が有効としています。
4.「宇宙空間での国際的緊張」
4つめのリスクは「宇宙空間での国際的緊張」です。
宇宙探査は長年にわたり、人類の大きな関心事であり続けています。人類を月面着陸へと導いたアメリカ合衆国のアポロ計画のように、かつてはその主役は国家でしたが、現在は「むしろ民間投資が拡大している」と本レポートは分析します。大企業だけでなく「多様な参入者」が小型衛星を打ち上げ、「ハイパー
スペクトルリモートセンシング、エネルギー生成、製造、鉱業、観光などの分野」で新たな機会を生んでいるとのことです。
一方、国家レベルでの宇宙開発計画もなお盛んに行われています。米国が主導する「アルテミス計画」はその代表的存在で、「月面探査を再開し、最終的には火星や小惑星への前哨基地を開発する」というものです。また、当然、軍事目的の衛星も多く打ち上がっています。
このように宇宙空間は今や様々な人工衛星による混雑状態にあり、それらの衝突によるスペースデブリの大量発生が懸念されています。衝突によって生まれたデブリ同士が再度衝突し、また次のデブリを生み、指数関数的にデブリが増加するという「ケスラーシンドローム」という理論が本レポートで紹介されており、これによって「宇宙空間が実質的に商業開発不可能になる」リスクすら考えられると示唆されています。
宇宙開発が進めば、やがて宇宙空間は商業空間であると同時に「軍事化」のリスクも孕むことになります。たとえば、宇宙条約では宇宙での核兵器の使用禁止は定められていますが、「通常兵器には言及していない」と本レポートは指摘します。
本レポートでは、宇宙空間での国際的リスクを軽減するために「主要な宇宙開発大国間の具体的かつ機能的な2国間または多国間協定」の締結が有効であると提言されています。スペースデブリの濫発を招きかねない商業分野での協定も広く受け入れられ、「強固なガバナンス」が宇宙空間にもたらされるのが明るい未来と言えそうです。
→4つ目のリスク「宇宙空間での国際的緊張化」詳細記事はこちら
5.新型コロナウイルス対策による格差拡大
5つめのリスクは「新型コロナウイルス対策による格差拡大」です。
いわゆる「コロナ禍」は2022年においても未だ続いています。本レポートが特に懸念を表明しているのは、「ワクチン接種の進行状況」が世界的にばらつきがあることです。
本レポートが発表された時点では、50か国で人口の70%以上がワクチンを接種していましたが、同時に「世界人口の20%が住む最貧52か国では、接種率は未だ6%にとどまっている」とのこと。このワクチン接種率の差が国家間の経済的格差を拡大させ、「社会的な結束」を脅かし、「接続性、教育、所得の方向性が二極化することにより、世界経済がさらに分断される危険性」さえもあると本レポート内で警告されています。
本レポートによれば、オミクロン変異株の出現によって新型コロナウイルスを「自主的な対策」で押さえ込むことに限界がきていると懸念する政府もあり、それでも行われるワクチン接種の義務化や行動制限は、「社会的弱者とされる人々の保護を目的」として、「ある程度の不信感や反抗を予期する必要があるだろう」としています。科学的な根拠を持った制約と、人々の善意を信じて確保する自由とのバランスが、ウィズコロナ時代の重要なテーマとなりそうです。
→5つ目のリスク「新型コロナウイルス対策による格差拡大」詳細記事はこちら
まとめ
本稿では、世界経済フォーラムが出版した『Global Risks 2022 17th Edition』の日本語版『第17回 グローバルリスク報告書 2022年版』より、以下の主要な5つのグローバルリスクを紹介しました。
「脱炭素社会への移行の失敗」
「サイバーセキュリティ対策の失敗」
「移民の困難化」
「宇宙空間での国際的緊張」
「新型コロナウイルス対策による格差拡大」
それぞれのリスクは独立したものではなく、有機的に影響しあっていることが、本レポートからは読み取れます。また、世界ではこれからも新たなリスクが発生し、政府や企業体はそれらへの対処を迫られていくでしょう。
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