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【連載】人的資本経営の実務を全体的に捉えるために(7) 外国人労働者の国内制度:技能実習制度と「育成就労」新制度、特定技能制度について

公開日:2024/02/07

日本の技能実習制度の流れと現在の問題

日本の技能実習制度は、1993年に始まりました。この制度はもともと、発展途上国からの実習生に対して、日本の技術や知識を提供し、その後彼らが母国での経済発展に貢献することを目的としていました。

当初は主に農業、漁業、建設業などの分野で実習生を受け入れていましたが、時間の経過とともに、製造業や介護業界など他の分野へも拡大しました。この制度は、日本の労働力不足を補う一方で、実習生に貴重な職業訓練の機会を提供するという二重の役割を果たしてきました。

しかし、技能実習制度は多くの問題点を抱えています。特に批判されているのは、実習生の権利侵害や劣悪な労働条件です。}

もちろん、健全な労働条件と労務管理のもとに技能実習生を雇用している企業も多く存在はします。しかし、実態として技能実習以外の労働環境よりも問題が発生している割合が高いのは事実です。実習生の中には、不当な低賃金で働かされたり、過度な長時間労働を強いられたりするケースが報告されています。

また、言語の壁や文化的な違いにより、実習生は適切な支援や情報にアクセスしにくい状況にあります。これに加え、一部の実習生は労働搾取や人権侵害の対象となっており、これらの問題は日本国内外で大きな批判を引き起こしています。

これらの問題に対処するため、日本政府は制度の改善に取り組んでおり、問題意識自体はずっと持たれています。2017年には技能実習法が施行され、技能実習生の保護を強化するための措置が講じられました。

この法律により、監督機関である外国人技能実習機構が設立され、実習生の労働環境の監査やサポートが強化されました。しかし、依然として実習生の権利保護には課題が残されており、2023年10月現在、制度のさらなる見直しが進められています。

技能実習制度についての基礎解説

前項で技能実習制度の概要と現状を解説しました。技能実習制度についてさらに制度の詳細を解説します。前述したように、技能実習制度は発展途上国の外国人が日本で技術や技能を学び、その知識を帰国後に母国の経済発展に活用するために設立された制度です。

この制度では、技能実習生として来日する人々が最長5年間、特定の業種で技能実習を受けることが可能です。技能実習生は、日本と技能実習に関して協議をしている14の発展途上国からのみ受け入れられ、先進国からの受け入れは行われていません。

技能実習生は1号、2号、3号の3種類に分けられ、各カテゴリーで異なる条件や要件があります。例えば、「技能実習1号」では最初の2ヶ月間は座学研修を受け、その後実習に移行します。2号と3号への移行には技能評価試験の合格が必要です。

技能実習法は、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」の略称で、技能実習の適正な実施と技能実習生の保護を目的として2017年11月に施行されました。この法律では、技能実習計画の認定や監理団体の許可の制度について規定しています。

技能実習生の生活と実習を支援するためには、監理団体が重要な役割を担います。監理団体とは、技能実習生の受け入れ企業が作成した技能実習計画の審査、計画の実施についての監理、必要な場合は指導の実施等を行う機関です。日本には約2,900の監理団体があります。

技能実習生を受け入れる際は、「企業単独型」と「団体監理型」の2つの方式があり、それぞれに受け入れ人数の上限が設定されています。技能実習計画の作成と提出、在留資格認定証明書の交付申請、ビザの申請などの手続きが必要です。

送出機関とは、技能実習生の母国にあり技能実習生を日本の監理団体に取り次ぐ機関で、来日前に日本語の教育や研修なども実施します。技能実習制度においては、労働基準法や労働安全衛生法など、日本の労働関連法令の遵守が求められており、違反すると罰則が適用される可能性があります。

技能実習法により、技能実習生を受け入れられる産業分野と職種が決められており、2023年7月時点で、8分野の88職種の161作業が定められています。技能実習生を受け入れるためには、監理団体や送出機関を通じた募集が一般的です。

技能実習制度の目的としては、開発途上国を支援することにあり、技能実習生は最長5年間の実習を終えた後に帰国し、母国での経済発展に貢献することが期待されています。技能実習制度を導入している産業分野と職種が限られているため、技能実習生を受け入れる前にはこれらの条件を確認することが重要です。

特定技能制度について

さて、ここで技能実習制度と関連した制度で現在行われている特定技能制度について解説します。特定技能制度は技能実習を経験した外国人労働者が対象となるような経路が最も多い制度であり、今後の制度変革でも重視されているものです。特定技能制度は2019年4月に導入された新しいビザカテゴリーです。

この制度の目的は、特定分野での技能と経験を持つ外国人労働者を日本に受け入れることにあります。特に、介護、建設、農業、飲食サービス、宿泊業などの分野で労働力の不足が顕著であるため、これらの産業を中心に外国人労働者の受け入れが行われています。

特定技能制度には「特定技能1号」と「特定技能2号」という2つのカテゴリーがあります。特定技能1号は、特定の分野で必要とされる基本的な技能を持つ外国人を対象としており、最大で5年間日本で働くことができます。
一方、特定技能2号はより高度な技能を持つ外国人労働者を対象にしており、こちらは原則として更新可能な在留資格を持っています。特定技能2号は、特定技能1号の経験を活かしてキャリアアップを図るために設けられたカテゴリーです。

特定技能制度では、外国人労働者が日本で生活しやすいように、様々なサポートが提供されます。これには、日本語学習の支援、住居の確保、社会保険への加入手続きの支援などが含まれます。また、この制度における外国人労働者は、日本人と同等の労働条件を享受する権利があり、労働基準法などの適用を受けます

特定技能制度の導入により、日本の産業界は必要とされる技能を持つ外国人労働者を積極的に受け入れることができるようになりました。この制度は、日本の長期的な人手不足問題に対処し、国際化を促進するための一歩となっています。導入された特定の業種は、政府の判断により変更される可能性があり、今後さらに多様化することが予想されます。

技能実習制度の見直しと「育成就労」制度について

さて、現在技能実習制度の見直しは、日本政府内の複数の省庁によって行われており、2023年の11月30日に「育成就労」の名称と共に新制度が発表されました。見直しの検討には法務省、厚生労働省、経済産業省などが協力して、実習生の受け入れ条件の見直しや労働環境の改善に向けた方策の検討をし、新制度の基本的な方向性が定められています。

新制度の方向性として、まず基本的に実習生の権利保護と労働環境の改善に重点を置くこととなっています。具体的には、実習生への適切な報酬の支払い、労働時間の管理、健康と安全の確保が重要な課題となっています。また、言語教育や文化的なサポートの提供も、実習生の生活の質を向上させることなどが検討されました。

新制度の「育成就労」では特に、「転籍」の制限緩和が議論の焦点となっており、実習生が他の企業に転職する条件が見直されています。これまでの制度では、外国人実習生の人権が十分に尊重されていないという問題が指摘されていたため、この見直しは重要です。

具体的には、転籍の条件に関する議論が活発で、実習生が希望する場合には、1年以上の就労と日本語、技能の基礎試験の合格を条件に、同業種内での転職を可能にする案が提出されました。さらに、特定の就労分野では2年目の待遇改善を条件に、転籍制限を最大2年間に延ばすことができるという修正案も示されました。しかし、この制限緩和には、企業側や政治家の間で様々な意見があり、転籍を制限することが人権侵害の温床になっているとの指摘もあります。

この制度見直しは、実習生の人権擁護と職場環境の改善につながると考えられます。また、企業にとっても、技能の習得と処遇の向上を通じて実習生の人権擁護を図ることは、人手不足問題への対応にも繋がると言えるでしょう。ただし、実習生の転籍の自由を認めることによる地方から都市部への人材流出懸念もありますが、これには根拠がないとの見方もあります。

さらに、新しい制度では、実習生が特定技能1号、特定技能2号への移行を容易にすることも検討されています。これにより、質の高い外国人労働力を長期間確保し、日本経済の再生に貢献することが期待されています。ただし、外国人労働者の受け入れ拡大には、共生を図るための言語面でのサポートや教育支援も重要です。

あくまで、2024年1月時点での案となりますが、旧制度の「技能実習」制度と、新制度の「育成就労」の制度では、次のような違いがあるものとされています。

 

旧制度「技能実習」制度

新制度「育成就労」制度

制度の目的

国際貢献・技術の移転

人材確保と人材育成

受入れ可能職種

88職種161作業

特定技能と同一分野

移行条件

受入れ前:6か月以上、360時間以上の講習

技能実習2号への移行:技能検定基礎級の合格

技能実習3号への移行:技能検定3級の合格

受入れ前:N5レベルの日本語能力

受入れ1年以内:技能検定基礎級合格

特定技能1号移行:日本語能力A2(N4)+技能検定3or特定技能1号評価試験

特定技能2号移行:日本語能力B1(N3)+技能検定1or特定技能2号評価試験

転籍・移籍

原則不可

同一企業で1年以上の就労後、転職可能

制度の管轄機関

外国人技能実習機構が管轄

外国人技能実習機構を改組し、外国人の支援・保護を強化した支援体制を整備した新たな機構へ

実習生制度の見直しは、実習生の人権擁護を最優先にしつつ、日本経済の潜在力向上という中長期の視点を持った成長戦略として進められるべきでしょう。

今後の展望に関しては、技能実習制度は日本の国際的な評判と直結しているため、制度の改善は急務です。政府は、制度の透明性を高め、実習生の権利を保護するための具体的な措置を講じる必要があります。さらに、国際社会との協力を深め、グローバルな基準に準拠した実習生の受け入れ体制を整備することが求められています。

このように、技能実習制度は日本経済において重要な役割を果たしてきましたが、同時に多くの課題を抱えています。制度の改善に向けた努力は、実習生の権利を保護し、日本の国際的な評判を守るために不可欠です。今後の制度見直しは、日本が国際社会において責任ある国としての役割を果たす上で、重要なステップとなるでしょう。

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