• TOP
  • 【連載】人的資本経営の実務を全体的に捉えるために(6) 2023年から2024年にかけての日本の雇用政策の概要 ~グローバル関連の方針から多様な働き方まで
facebook twitter hatena blog

【連載】人的資本経営の実務を全体的に捉えるために(6) 2023年から2024年にかけての日本の雇用政策の概要 ~グローバル関連の方針から多様な働き方まで

公開日:2024/02/05

2024年にかけては少子高齢化への対応・人的資本経営等の重要政策の徹底・グローバル雇用市場への対応等を軸としたさまざまな雇用政策や法改正が予定されています。
本稿では、特に雇用系の政策にスポットをあてて、今後、2023年中から2024年にかけて行われる予定となっている政策を記載します。

まず全体的に見ると、少子高齢化への対応を行い、かつ世の中がいっそう複雑で変化が早くなっていることに合わせた、「多様な働き方」を促す動きが大きく様々に見られます。

また、グローバル化や新技術への対応なども政策的に注力されるポイントになっています。そして、スタートアップへの注力が政策的にも大きくうたわれています。いっそう多様な社会・多様な働き方が推進される政策となっていると言えるでしょう。

「多様な働き方」が促進される傾向は、2017年頃に始まった「働き方改革」から変わらずに続いている流れだと言えますが、2022年から急に政策として大きな扱いになってきた「人的資本経営」の政策により、単なる雇用ルールの域を超え、経済政策全体を包括し革新するものへと大きくその範囲が広がっています。

こうした動きの全体像を把握しておくことは事業への活用を行う上で大変有益だと言えるでしょう。次項より具体的に次のような項目ごとに説明して参ります。

1: グローバル化に対応した雇用制度整備
2: スタートアップや先進技術関連の政策
3: 多様な働き方の進展 ダイバーシティ関係
4: 多様な働き方の進展 リスキリング関係
5: 多様な働き方の進展 2024年問題と社保拡大

1: グローバル化に関連した雇用制度の整備

2024年までに予定されている「グローバル高度人材の政策」、「技能実習制度等の見直し」は、先進的な雇用課題への対応やグローバルを見据えた雇用政策となります。

「グローバル高度人材の政策」は、国外の知識労働者や専門職に焦点を当て、その活躍の場を国内で拡大することを目的としています。これは、国際競争力の向上だけでなく、高度な技術や知識を持つ人材が国内で働きやすい環境を作ることで、国内産業全体のレベルアップを図る狙いがあります。

2023年4月に新たな在留資格制度(特別高度人材制度(J-Skip)・未来創造人材制度(J-Find))が創設されました。「特別高度人材制度」は、学歴又は職歴と年収が一定以上の方に「高度専門職」の在留資格を付与し、優遇措置を拡充した制度、「未来創造人材制度」は優秀な海外大学の卒業生が最長2年間の就職活動等ができる制度です。これらの活用を進めることが目指されています。

また関連して政府において「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」が設定されており、税制や規制などの制度面も含めた課題の把握・検討を行い、必要な対応を行うことを含め、高度外国人材等の呼び込みに向けた制度整備が推進されています。

ほか、国際的なリモートワーカー(いわゆる「デジタルノマド」)の呼び込みに向け、ビザ・在留資格など制度面も含めた課題についての把握・検討を行い、2024年度中の制度化が進められています。
他にも、外国人起業活動促進事業(スタートアップビザ)について自治体に代わって国認定のベンチャーキャピタル等が起業準備活動計画についての確認手続を行う仕組みの2024年内の創設や最長在留期間延長の検討も進められています。このように、様々なグローバル関連の人材関連施策が注力して進められています。

「技能実習制度等の見直し」は、従来の制度で問題が多かった、労働移動のない低賃金の状態での弊害を打破することを目指して進められており、労働者特に国際的な労働力の活躍・活用と流動性を高めることが目的です。海外からの労働者が国内で働きやすい環境を整えることを目指し、制度の一新が進められています。

2: スタートアップや先進技術関連の政策

スタートアップや起業関連の政策は、それぞれが国内外の労働市場やビジネス環境に大きな影響を与えることが予想されます。スタートアップ関係やAI利用等については各省庁で個別性の高い施策として行われるものが多く、横断して捉えることには難しさがありますが全体として雇用への影響が大きく、今後の経済的な影響が大きいものも多くなっています。

「スタートアップ5か年計画」は、国内でのスタートアップ企業の育成を促進する方針です。直接のスタートアップ施設の国内外での創設や、補助金、税制優遇、融資制度など、多角的な支援が行われています。

これにより、新しいビジネスモデルや革新的なサービス、製品を生み出す力が増強されます。また、「女性起業家支援」として、女性がビジネスを始めやすい環境を整える様々な制作が進められています。女性特有の視点や能力を生かしたビジネスが期待されます。

「AI利用の加速化」は、様々な象徴で、ガイドラインや産業促進の主題としてAIに対する支援が定められ、働く分野の様々な個所でAIの社会的な実装への促進が行われることを指します。
産業全体でのAI技術の活用を促進することで、生産性向上や新しいビジネスモデルの創出を目指します。これにより、データ解析、自動化、最適化など、多くの分野で革新が進むと考えられます。

3: 多様な働き方の進展 ダイバーシティ関係

「新しい資本主義」の軸となる政策として、人的資本経営が進められています。2023年3月末決算から上場企業の情報開示が開始されましたが、2023年から2024年にかけて、特に女性活躍と関係するダイバーシティ関係の政策について、さらなる充実が検討されています。

人的資本経営と関連する政策は、それぞれの企業での多様な働き方の確立とキャリアの自律が目指されています。そういう中で、ダイバーシティ関係の施策は重要度の高いものであると言えます。

■「上場企業の役員比率の目標設定」

上場企業については、2021年のコーポレートガバナンスコードの変更以降には役員比率を開示するルールとなっています。また、2023年3月決算以降に女性管理職比率の開示義務が加わっています。こうした中で、女性等の多様性を確保することは国際的にも重視されています。

特に、上場企業の女性役員比率について、今までは極力向上させること、という形だったのですが、30%等の具体的な目標を設定する可能性があるとの形で、政策上の予告がされています。どういった形のルールとなるか分かりませんが、少なくとも比率向上が行政からの発信で一層求められることになりそうです。

■「男女賃金の差の開示対象の拡大」

女性活躍推進法のさらなる拡大と改正の可能性があるものとされています。女性活躍推進法は全企業に努力義務となっており、女性の活躍について事実を把握し、活躍のための行動計画を立て、測定する指標と目標を設けて公表する法令です。

この法令の中の、現在は300人超の企業に義務付けられている男女の賃金の差のルールが100人超にまで拡大される予定となっています。

4: 多様な働き方の進展 リスキリング関係

2024年までに実施予定の政策は、瞬く間に変化するテクノロジーと国際経済の波に柔軟に対応できるよう、労働環境を一新する狙いがあります。

その背景には、産業の変化と国内の事業環境の変化があります。産業の変化は、主にはAIや自動化の進展で多くの職が消失する一方で、新しい専門職が生まれ、それに対応するリスキリングが急募されている状況があります。国内の事業環境の変化とは、少子高齢化により生産年齢が伸びることが確実視されていることが背景にあります。

そういう中で、何歳になっても元気なうちは働ける状態を目指し、様々な生き方や技術を身に着け、様々な仕事に前向きに取り組んでいくような職業人としてのキャリア観が求められています。

「リスキリングの新制度」
既存の職業訓練とは一線を画し、業種を問わずに広く様々な職種技能や知見を磨けるプログラムを提供することで、人々が多様な職に対応できるようにする制度です。

様々な提供事業者が参入しており、バリエーションが広い学びの機会となっています。また、雇用調整助成金の見直しはこうしたリスキリングにも対応できる助成金とすべく、企業の主体的な研修等の機会において支援ができるように助成金の趣旨を付加するような運用変更を行うことを指します。

「専門実践教育訓練の拡充」
特定のスキルセットや知識が必要な業界で、即戦力となる人材を供給するプログラムです。また、労働条件通知書の要件変更は、特に有期雇用の方にとって企業における契約の透明性を高め、労働者が自分の働き方を選ぶ際の情報を豊富にする目的があります。

職種や職場の異動、無期雇用への転換について明示することを義務化する変更が行われます。そして、三位一体の労働市場改革では、政府・労働者・企業が協力して、雇用の安定と労働生産性の向上を図る形で、ジョブ型の人事制度への転換等を中心とした多くの施策を進めていくことを指します。

このような制度改革が進むことで、労働者は自らのキャリアを積極的に形成でき、企業はより柔軟な労働力の調整が可能になると考えられます。

5: 多様な働き方の進展 2024年問題と社保拡大

建設や運送業界、また医師に関して猶予されていた労働時間に関する制度の適用が行われ、2024年問題といわれる雇用課題と密接に繋がっています。さらに業種横断で大きな賃上げが断行されるものとされています。また、社会保険の対象拡大が2022年に引き続いて再度行われます。

建設・運送業・医師等の働き方改革の実施 ~2024年問題関連
2019年に働き方改革関連法により、年720時間等の残業時間の上限規制ほか、様々な労働時間の規制が設けられました。こうしたルールの適用が、建設・運送・医師などの業種においては労働力の不足や対応の必要性等の業界的な特殊性から免除されていたのですが、2024年4月に規制が拡大することになります。

それ以外の業種よりも緩和された基準ではありますが、こうした業種にも規制が適用されることとなり、事業運営の仕方などを含め様々な工夫が必要になります。建設業や運送業の「2024年問題」と言われているのは、このような規制の適用や、構造的な若手を中心とした人材不足などにより、これらの業種の維持や技能の継承に問題が生ずることを言います。

社会保険対象者の拡大
2024年10月には社会保険対象者が拡大され、20時間以上の労働時間の方(他にも賃金額等の要件あり)が、50人超の企業に勤務している場合は基本的に社会保険に加入することが義務化されます。この政策は、2022年に100人超規模に拡大があった後の第二段階目の拡大策となります。

社会保険料は、企業側から見ると、従業員負担分も合算すると賃金額の30%程度の巨大なものですので、公的負荷が大きく増えることになります。制度目的としては、少子高齢化が進む社会において、より多様な方々に対して社会保険の拡大を図るためということになります。

TOPへ戻る
新着記事