ESGの環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3要素の中で、ガバナンス(Governance)に焦点をあてて、ガバナンス(Governance)の基本的な概念と、その重要度について整理、解説します。
「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った造語です。「ESG」は2006年に国連が発表した責任投資原則(以下、PRI)で提唱されました。そして、原則に賛同する投資家、企業などが増え、その重要性の高まりと、認知が広く認識されるようになった投資判断の原則となります。投資家側からは「ESG投資」という形で使われ、一方で、企業側では、ESGを意識した経営として、「ESG経営」と言う言葉で使われています。
ガバナンス(Governance)とは、Govern(統治する、支配する、管理する)という動詞の名詞化となります。ESGにおけるガバナンス(Governance)とは、コーポレートガバナンスを指し、会社経営の健全性・透明性・効率性を企図した組織の確立とその運営になります。そして、高いガバナンス(Governance)を有するか否かは、投資家をはじめとしたマルチステークホルダー(株主以外の従業員、取引先、社会全体などの利害関係者)からの重要な評価のポイントともなります。
なお、PRIでは、「無数にあり、絶えず変わっていく」との前提のもと、ガバナンス(Governance)の例として以下のようなものを挙げています。
ガバナンス(Governance)が示す範囲は広いため、限定できませんが、ガバナンスが十分に担保されている経営としては以下のような例が挙げられます。
コンプライアンス態勢や内部通報制度などが整備され、運用されている。ガバナンスを支える基本的な要素です。
経営状態や役員報酬の体系などを株主などに開示し、経営の透明性が担保されていることも重要です。
利害関係がなく客観的な判断が出来る社外取締役や監査役が十分に機能しており、組織の自浄作用が保たれていることもガバナンスの重要な観点となります。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の「第6回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート(2021年5月)」では、企業が挙げるESG活動で関心が高い主要テーマは、「コーポレートガバナンス」が最も高い関心と回答しています。スチュワードシップコードの改定などの動きが背景にあり、関心が高まっていると考えられます。
*スチュワードシップコードは、イギリスで2010年に機関投資家のあるべき姿を規定したガイダンス。そして、日本においては、日本版のコードの制定、改定が行われています。
環境(Environment)、社会(Social)に対する課題への取り組みには、会社経営のガバナンス(Governance)が確保されていることが必要との考えがあります。
ガバナンス(Governance)が担保されない経営にどのようなリスクやデメリットがあるのでしょうか。
経営や業務プロセスに統制が効いていないと、不正や不祥事が発生しやすくなります。大きな不正や不祥事が発覚すると、企業は社会的信用を大きく失うことになります。
市場競争はグローバル化が進み、状況が刻々と変化しています。ガバナンス(Governance)が効いていないと、業務の効率性が確保できない、または、事業の持続性へ懸念をきたすなど、競争力確保を含めた事業面でのリスクが高まります。
ガバナンス(Governance)の確立は、企業経営者にとって、株主だけでなく、マルチステークホルダーに対する、責任ある企業経営を行う上での必要な取り組みとなります。それは、ガバナンス(Governance)の欠如、そのことを起因とした数多の社会的損失の発生事例が物語っているように、的確なガバナンス(Governance)に基づく企業経営と経営上のリスク管理体制との連関性が強く、表裏一体の関係にあるとも言えるからです。
コーポレートガバナンスの目的が、リスク管理や説明責任の側面に焦点を当てて語られる傾向にありますが、一方で事業の競争力の強化や保持と言った、ビジネスの成長面も含有しています。したがって、経営者が、企業の内外からの適切なチェックによる緊張環境のもと、能力を発揮し、企業価値向上を達成できる体制こそが、理想的なガバナンス(Governance)体制であると言えます。